年末調整の還付は、原則として「その年最後に受け取る給料(または賞与)」で戻ってきます。多くの会社では12月の給料日です。
そして2026年は、例年と少し事情が違います。税制改正で基礎控除が12月から引き上げられ、その分がまとめて12月の年末調整で精算されます。私が国税庁の資料をもとに試算したところ、年収600万円の単身者なら、改正がなかった場合より約3.7万円多く戻る計算になりました。
一方で、年収700万〜1,000万円前後では、上乗せは約8,000円にとどまります。年収が高いほど多く戻る、という単純な話ではありません。この記事では、国税庁の資料と法令の条文で確かめた範囲で、次の3点を整理します。
- 還付はいつの給料で戻るのか(12月か、1月か)
- 2026年の改正で、年収別にいくら上乗せされるのか
- 改正の恩恵を年末調整で受けられない人は誰か
還付は「その年最後の給料」で戻る。12月の給料日が基本
年末調整のタイミングは、所得税法で決まっています。所得税法第190条は、会社が「その年最後に給与等の支払をする場合」に1年分の税額を計算し直すと定めています。
年末調整は、1年間に給料から天引きした所得税と、本来払うべき1年分の所得税を比べる手続きです。天引きのほうが多ければ、差額(過納額といいます)が本人に戻ります。少なければ、差額が追加で引かれます。
なお、全員が年末調整を受けられるわけではありません。所得税法第190条により、その年の給料が2,000万円を超える人は対象外です。また、扶養控除等申告書を出していない勤務先(副業先など、いわゆる乙欄の給料)の分も年末調整されません。これらは確定申告で精算します。
「その年最後の給料」がいつになるかは、会社の給料日の決め方で変わります。
| 会社の給料の払い方 | 年末調整が行われる支払い |
|---|---|
| 12月中に12月分の給料を払う(当月払い) | 12月の給料 |
| 12月分の給料を翌年1月に払う(翌月払い) | 12月に払う11月分の給料 |
| 12月の給料日より後に冬の賞与を払う | その賞与 |
翌月払いの会社で「12月分なのに年末調整に入らないのはなぜ?」と感じる人もいるはずです。理由は、給料がどの年の収入になるかは「支給日」で決まるからです。所得税基本通達36-9は、支給日が決まっている給料の収入時期を「その支給日」としています。1月に払う12月分の給料は、翌年の収入として扱われます。
給与明細では「年末調整」「過不足税額」といった欄に、マイナス表示などで還付額が載ることが多いです。表示のしかたは会社の給与システムによって違うので、自分の明細の欄名を一度確認しておくと迷いません。
1月以降にずれ込むこともある。法令上の流れは「後から順に返す」
「12月の明細に還付が載っていない」という場合でも、すぐに失敗とは限りません。会社が還付に回すお金の出どころに、仕組み上の限度があるためです。
国税庁の令和8年度税制改正Q&Aは、過納額の扱いをこう説明しています。
- 還付するお金は、会社が年末調整をした月の分として国に納める源泉所得税から差し引いて用意する
- その月の分だけで足りなければ、その後に納める分から差し引き、順に還付する
- 還付することになった日の翌月から2か月たっても返しきれない見込みなら、会社が税務署に「源泉所得税及び復興特別所得税の年末調整過納額還付請求書兼残存過納額明細書」を出す
最後のケースは、所得税法施行令第313条にも定めがあります。会社の代わりに税務署が、まだ返していない分を本人に還付する仕組みです。
つまり、従業員が少ない会社や、改正で全員の還付額がふくらむ年は、一部が1月以降の給料に回る可能性があります。2026年はまさに「全員の還付額がふくらみやすい年」です。12月の明細で全額が戻っていなかったら、まず経理や総務に「残りはいつ精算されますか」と聞くのが早道です。
2026年は基礎控除の引き上げ分が、12月にまとめて戻る
2026年の年末調整がいつもと違う理由は、令和8年度税制改正です。国税庁の資料によると、次の3つの改正が2026年12月1日に施行され、2026年分の所得税から適用されます。
- 所得税の基礎控除の引き上げ
- 給与所得控除の最低保障額の引き上げ(65万円→74万円)
- 扶養親族などの所得要件の引き上げ
ポイントは、2026年11月までの毎月の天引き額は変わっていないことです。国税庁は「令和8年11月までの給与等の源泉徴収事務に変更は生じません」と明記しています。新しい月々の税額表(源泉徴収税額表)が使われるのは、2027年1月以後に払う給料からです。
つまり2026年は、1月から11月まで旧ルールで天引きされたまま、12月の年末調整で新ルールの年税額に計算し直されます。差額は12月の還付に上乗せされる、という流れです。
基礎控除がどれだけ変わったかは、国税庁「源泉所得税の改正のあらまし(令和8年4月)」の表で確認できます。年収は、収入が給料だけの場合の目安です。
| 年収(給料だけの場合) | 改正前(2026年分) | 改正後(2026・2027年分) | 増えた額 |
|---|---|---|---|
| 206万円以下 | 95万円 | 104万円 | +9万円 |
| 206万円超〜475万1,999円以下 | 88万円 | 104万円 | +16万円 |
| 475万1,999円超〜665万5,556円以下 | 68万円 | 104万円 | +36万円 |
| 665万5,556円超〜850万円以下 | 63万円 | 67万円 | +4万円 |
| 850万円超〜2,545万円以下 | 58万円 | 62万円 | +4万円 |
目を引くのは真ん中の帯です。年収およそ475万〜665万円の人だけ、基礎控除が36万円も増えます。上下の帯は4万〜16万円の増加なので、改正の恩恵がこの帯に集中していることが分かります。
年収別の試算。上乗せが大きいのは年収600万円前後
基礎控除が増えると、そのぶん税金がかかる所得が減ります。下の表は、改正がなかった場合と比べて、2026年分の所得税(復興特別所得税を含む)がいくら下がるかを私が試算したものです。下がった分が、12月の還付の上乗せ(または追加で引かれる額の減少)になります。
試算の前提は次のとおりです。
- 単身で、扶養する家族はいない
- 収入は給料だけ
- 社会保険料は年収の15%と仮定
- 生命保険料控除などほかの控除はなし
| 年収 | 改正前の年税額 | 改正後の年税額 | 上乗せされる還付(目安) |
|---|---|---|---|
| 150万円 | 0円 | 0円 | 0円 |
| 200万円 | 約3,500円 | 0円 | 約3,500円 |
| 300万円 | 約3.5万円 | 約2.7万円 | 約8,200円 |
| 400万円 | 約6.5万円 | 約5.7万円 | 約8,200円 |
| 500万円 | 約11.8万円 | 約9.0万円 | 約2.8万円 |
| 600万円 | 約18.4万円 | 約14.8万円 | 約3.7万円 |
| 700万円 | 約28.2万円 | 約27.4万円 | 約8,200円 |
| 1,000万円 | 約78.3万円 | 約77.4万円 | 約8,100円 |
この表から言えることは3つあります。
1つ目は、年収600万円前後が上乗せのピークだということです。基礎控除が36万円増え、しかも所得税率10%の帯に当たるため、差が大きくなります。
2つ目は、年収500万円の上乗せが600万円より小さいことです。同じく基礎控除は36万円増えますが、減った所得の一部が税率5%の帯にかかるためです。
3つ目は、年収700万円を超えると、年収1,000万円前後まで上乗せが約8,000円に落ちることです。基礎控除の増加が4万円にとどまるためで、年収650万円と700万円では、上乗せに約3万円の差が出ます。それより上の年収では税率が上がるため、上乗せも少し増えます(同じ前提で年収1,200万円なら約9,400円)。
なお、この表はあくまで目安です。実際の年末調整では、国税庁の「給与所得控除後の給与等の金額の表」を使うため、端数の扱いで少しずれます。社会保険料の割合や、生命保険料控除・iDeCoなどの控除があれば、金額は変わります。年収150万円の行のように、そもそも所得税が天引きされていない人は、控除が増えても戻るお金はありません。
年末調整では改正の恩恵を受けられない人がいる
改正後の控除が年末調整で反映されるのは、2026年12月1日以後に行う年末調整だけです。国税庁のQ&Aは、次の人は年末調整では改正後の控除が適用されないとしています。
- 2026年中に退職し、年末調整を受けていない人
- 海外転勤などで非居住者になった人や、亡くなって退職した人で、居住者として最後の給料を11月30日以前に受け取った人
- 休業・休職して年末までに復職していない人で、最後の給料を11月30日以前に受け取った人
これらの人が改正後の控除を使うには、確定申告が必要です。亡くなった人の分は、相続人が「準確定申告」をして精算します。たとえば10月に会社を辞めて、年内は再就職していない人が当てはまります。何もしなければ、本来戻るはずの税金を取りこぼすことになります。ただし、源泉徴収票の「源泉徴収税額」が0円の人は、確定申告をしても戻る税金はありません。
家族の「扶養の線」も12月から上がる。申告書の出し直しを忘れない
もう一つ見落としやすいのが、扶養親族の所得要件です。12月1日から、扶養親族になれる人の合計所得金額の上限が58万円から62万円に上がりました。給料だけで見ると、年収123万円以下から136万円以下への引き上げです。
ただし、これは税金上の扶養の線です。健康保険の扶養に入れる収入の線(年収130万円未満)は、この改正では変わりません。家族の年収が130万円以上136万円以下だと、税金上は扶養に入れても、健康保険では扶養から外れることがあります。
家族のバイト収入が年収123万円を少し超えていて、これまで扶養から外れていた人は要注意です。12月の改正で新たに扶養親族になれる場合は、「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を会社に出し直す必要があります。国税庁は、異動月日及び事由の欄に「令和8年12月1日 改正」などと書くよう案内しています。
出し直さなければ、会社は改正後の扶養を知りようがありません。年末調整に間に合わなかった場合は、確定申告で取り戻すことになります。扶養内で働く家族の収入の上限がどう変わるかは、最低賃金の引き上げと扶養内の働き方を試算した記事でも扱っています。
年金を受け取っている人も、12月の年金支払いで精算される
基礎控除の引き上げは、年金から天引きされる所得税にも及びます。国税庁のQ&Aによると、厚生労働大臣が支給する公的年金などについて、2026年12月の年金支払い時に1年分の税額が計算し直されます。還付すべき金額があれば、原則として年金の支払者から還付されます。
ただし、12月に年金の支払いがない場合は、この精算の対象になりません。その場合や、改正で新たに扶養の対象になる家族がいる場合は、確定申告で精算します。企業年金(確定給付企業年金)は、この12月精算の対象から除かれています。
還付を確実に受け取るために、11月中にやること
最後に、ここまでの内容をやることリストにまとめます。
- 会社から配られる年末調整の書類を、締め切りまでに出す(基礎控除申告書には、改正後の基礎控除額を書く)
- 家族の年収が123万円を超え136万円以下なら、扶養控除等申告書の出し直しを会社に相談する
- 自分の会社の給料日が当月払いか翌月払いかを確認し、どの支払いで精算されるか把握しておく
- 12月の明細で還付額を確認し、少なすぎると感じたら残りの精算時期を会社に聞く
- 年内に退職して年末調整を受けていないなら、来年の確定申告を予定に入れる
毎月の給料の手取りがどう決まっているかを整理したい人は、手取りは額面の約8割という話をまとめた記事もあわせてどうぞ。
2026年の年末調整は、改正の差額をまとめて受け取る「臨時ボーナス」のような年です。上乗せは年収600万円前後で約3.7万円、700万〜1,000万円前後では約8,000円。同じ会社員でも、年収の帯によって戻り方がまったく違います。12月の明細は、例年より少しじっくり見る価値があります。
出典
- 国税庁「令和8年度税制改正による所得税の基礎控除の引上げ等について」 https://www.nta.go.jp/users/gensen/2026kiso/index.htm
- 国税庁「源泉所得税の改正のあらまし(令和8年4月)」 https://www.nta.go.jp/publication/pamph/gensen/2026kaisei.pdf
- 国税庁「令和8年度税制改正(所得税の基礎控除の引上げ等関係)Q&A(令和8年5月)」 https://www.nta.go.jp/users/gensen/2026kiso/pdf/0026005-024.pdf
- 国税庁 タックスアンサーNo.2662「年末調整のしかた」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2662.htm
- 国税庁「所得税基本通達36-9(給与所得の収入金額の収入すべき時期)」 https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/shotoku/05/01.htm
- e-Gov法令検索「所得税法」第190条・第191条 https://laws.e-gov.go.jp/law/340AC0000000033
- e-Gov法令検索「所得税法施行令」第312条・第313条 https://laws.e-gov.go.jp/law/340CO0000000096
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