「年末調整の書類、出さなかったらどうなるの?」
結論から書きます。出さなかったことへの罰則は、所得税法に見当たりません。警察が来ることも、罰金を取られることもありません。
ただし、お金の損は出ます。損の正体は2つだけです。
- 受けられたはずの控除が消えて、税金を多めに払ったままになる
- 「扶養控除等申告書」を出さないと、毎月の天引きが高い「乙欄」になる(社会保険料を引いた後の月給が20万円・扶養なしなら、天引きの差は年18万4,320円)
しかも、まだ間に合います。12月の年末調整の日までに扶養控除等申告書を出せば、その年に乙欄で多く引かれた分も年末調整で精算されます。年明けを過ぎても、確定申告(翌年1月1日から5年間)で取り戻せます。
この記事では、国税庁の令和8年分(2026年分)の資料と所得税法の条文を読み、「出さないと何が起きるか」を書類ごとに整理しました。2026年は12月に控除が大きく変わる年なので、例年より取りこぼしの金額が大きくなりやすい点も書いています。
罰則はゼロ。義務はあるのに罰がない理由
従業員が書類を出さなくても、罰則はありません。条文を順に見ると、そう読めます。
まず、義務そのものはあります。所得税法194条は、給与をもらう人は「扶養控除等申告書」を、その年の最初の給与日の前日までに出さなければならないと定めています。国税庁も「扶養親族などがいない人でも提出しなければならない」と案内しています。
一方、所得税法の罰則(238条〜243条)を読むと、この申告書を出さなかった人を罰する規定は見当たりませんでした。罰則があるのは、たとえば次のような行為です。
- 会社が、徴収すべき税金を天引きしなかった(242条3号)
- 会社が、源泉徴収票を期限までに出さなかった(242条5号・6号)
- 確定申告の義務がある人が、正当な理由なく期限までに申告しなかった(241条)
つまり、年末調整の罰則は「会社側」と「確定申告の義務がある人」に向いています。書類を出さなかった従業員本人を罰する条文はない、というのが私の読み方です。
ただし、確定申告の義務がある人は話が別です。副業の所得が20万円を超える人などは、年末調整とは関係なく確定申告が必要です(後で詳しく書きます)。
「出さない」書類によって、起きることが違う
「年末調整をしない」といっても、どの書類を出さないかで結果が変わります。国税庁が案内している申告書は7種類です。損の大きさで分けると、こうなります。
| 出さなかった書類 | 起きること | 損の大きさ |
|---|---|---|
| 扶養控除等申告書 | 毎月の天引きが「乙欄」になり、年末調整そのものの対象から外れる | 大きい |
| 基礎控除申告書 | 年末調整で基礎控除(最大104万円)が受けられない | 大きい |
| 配偶者控除等申告書・特定親族特別控除申告書 | 配偶者控除など(最大38万円、70歳以上の配偶者は最大48万円)、特定親族特別控除(最大63万円)が受けられない | 該当者は大きい |
| 保険料控除申告書 | 生命保険料控除(最高12万円)・地震保険料控除(最高5万円)などが受けられない | 中くらい |
| 住宅借入金等特別控除申告書 | 2年目以降の住宅ローン控除が年末調整で受けられない | 該当者は大きい |
| 所得金額調整控除申告書 | 年収850万円超で条件に合う人の控除(最大15万円)が受けられない | 該当者のみ |
控除額は、国税庁の「令和8年分 各種控除について(給与所得者用)」の数字です。
注意したいのは基礎控除です。基礎控除はほぼ全員が受けられる控除(合計所得2,500万円超の人は0円)ですが、年末調整では「基礎控除申告書」を出さないと適用されません。国税庁も「申告書の提出漏れにより基礎控除を受けることができないこととならないようご注意ください」と、わざわざ書いています。
控除104万円が消えた場合、税率5%の範囲に収まる人なら、所得税だけで約5.3万円多くなる計算です(104万円×5%に、復興特別所得税2.1%を上乗せ)。
扶養控除等申告書を出さないと、月給30万円で天引きは約7倍
一番影響が大きいのは、扶養控除等申告書を出さないケースです。毎月の給与から引かれる所得税に、税額表の「乙欄」が使われます。
乙欄は、本来は2か所目の勤務先(副業先など)向けの欄です。申告書を出した人に使う「甲欄」より、はっきり高く設定されています。国税庁の「給与所得の源泉徴収税額表(令和8年分)」の月額表から、扶養親族0人で比べました。
| 社会保険料等を引いた後の月給 | 甲欄(申告書あり) | 乙欄(申告書なし) | 1年間の差 |
|---|---|---|---|
| 8万円 | 0円 | 2,450円 | 2万9,400円 |
| 10万6,000円 | 170円 | 3,800円 | 4万3,560円 |
| 20万円 | 4,340円 | 1万9,700円 | 18万4,320円 |
| 30万円 | 7,930円 | 5万3,600円 | 54万8,040円 |
※月額表の「199,000円以上201,000円未満」などの行の金額です。10万5,000円未満の乙欄は、月給の3.063%です。1年間の差は、同じ月給が12か月続いた場合の単純計算です。
月給30万円の行では、乙欄は甲欄の約6.8倍です。しかも、扶養控除等申告書を出していない人は、年末調整の対象になりません。国税庁は、年末調整の対象を「扶養控除等申告書を提出している人」としています(所得税法190条)。
申告書を出さないまま年末を迎えると、多く引かれた分は12月に精算されません。ただし、年末調整の日までに申告書を出せば対象に入ります。国税庁は対象者を「年末調整を行う日までに」申告書を提出している人としており、その年の1月から乙欄で引かれた分も含めて精算されます(所得税法190条1号)。出し忘れに気づいたら、まず今すぐ会社に出すのが一番簡単です。年末調整に間に合わなかった場合は、確定申告で取り戻します。
学生バイトは「全額戻る」ケースが多い
学生のバイトで申告書を出していない場合、乙欄で引かれた税金は全額戻る可能性が高いです。
2026年分は、給与所得控除の最低額が74万円、基礎控除が104万円です(合計所得489万円以下の場合)。どちらも令和8・9年分(2026年・2027年)だけの特例を含む金額です。給与だけの人なら、年収178万円までは所得税がかかりません(178万円−74万円−104万円=0円)。
たとえば月8万円で1年働くと年収96万円です。所得税は0円なので、乙欄で引かれた2万9,400円は、確定申告ですべて戻る計算になります。
2026年は「出さないと損が大きい年」
2026年は、例年より年末調整を出す意味が大きい年です。税金のルールが12月に変わり、その差を年末調整で精算するからです。
国税庁の資料によると、令和8年度税制改正で次の2点が変わりました。どちらも、原則として2026年12月1日に施行され、2026年分の所得税から適用されます。
- 基礎控除の引上げ(合計所得489万円以下なら104万円)
- 給与所得控除の最低額の引上げ(65万円→74万円)
なお、104万円・74万円は令和8・9年分の特例を含む金額で、2028年分以降は基礎控除・最低額とも下がる予定です(国税庁資料の「令和10年分以後」欄)。
ポイントは、毎月の天引きには反映されていないことです。国税庁は「令和8年11月までの給与等の源泉徴収事務に変更は生じません」とし、12月の年末調整で引上げ後の控除を使って精算すると書いています。
基礎控除が改正前の制度からどれだけ増えたかは、合計所得によって違います。
| 合計所得(給与だけの場合の年収) | 改正前の制度 | 改正後 | 増えた控除 |
|---|---|---|---|
| 132万円以下(206万円以下) | 95万円 | 104万円 | 9万円 |
| 132万円超336万円以下(206万円超475万1,999円以下) | 88万円 | 104万円 | 16万円 |
| 336万円超489万円以下(475万1,999円超665万5,556円以下) | 68万円 | 104万円 | 36万円 |
| 489万円超655万円以下(665万5,556円超850万円以下) | 63万円 | 67万円 | 4万円 |
給与だけで年収475万〜665万円ほどの人は、控除が36万円増える区分に入ります。税額に直すと、税率5%の人で約1.8万円、10%の人で約3.7万円分です(復興特別所得税込みの単純計算)。たとえば年収500万円なら、課税所得はおおむね税率5%の範囲です。
年末調整を出さない人は、この増えた分を12月に受け取れません。確定申告をするまで、取り戻すことはできません。
扶養の範囲も広がりました。扶養親族の所得要件は、給与だけなら年収123万円以下から136万円以下になりました。新たに扶養に入る家族がいる場合は、「異動申告書」の提出が必要です。家族のバイト収入と「壁」の話は、最低賃金56円アップ、扶養内で働く人は年収が増えず時間だけ減るでも整理しています。
出し忘れたら、取り戻す方法は2つ
年末調整の日までに気づけば、会社に申告書を出すだけで済みます。その日を過ぎてから気づいた場合も、取り戻す方法は2つあります。時期で使い分けます。
翌年1月末までなら、会社でやり直せる場合がある
年末調整が終わった後でも、会社は年末調整をやり直せます。国税庁の「令和8年分 年末調整のしかた」によると、期限は源泉徴収票を渡す翌年1月末日までです。
たとえば、年末調整の後に保険料控除申告書や住宅借入金等特別控除申告書を出した場合です。この場合も、会社はやり直しができると書かれています。ただし、やり直しは会社の事務なので、応じてもらえるかは会社次第です。まずは給与担当に聞くのが早いです。
それ以降は確定申告(還付申告)で取り戻す
会社でのやり直しが間に合わなければ、自分で確定申告をします。税金を返してもらうための申告は「還付申告」と呼ばれます。
国税庁によると、還付申告は確定申告の期間に関係なく、翌年1月1日から5年間出せます。2026年分なら、2027年1月から出せる計算です。2月や3月の混む時期を待つ必要はありません。
確定申告をすると、住民税の申告もしたことになります(地方税法317条の3)。市区町村に別の書類を出す必要は、原則としてありません。
そもそも年末調整の対象外の人もいる
書類を出しても、年末調整の対象にならない人がいます。国税庁のタックスアンサー(No.2665)によると、主に次の人です。
- 1年間の給与が2,000万円を超える人
- 年の途中で退職し、年末までに再就職していない人(一部の例外を除く)
- 災害減免法で、給与の税金の猶予や還付を受けた人
また、年末調整は扶養控除等申告書を出した勤務先が行うものです(所得税法190条)。2か所で働いている人の場合、申告書を出していない2か所目の給与は、その勤務先では年末調整されません。
年の途中で退職した人は、毎月の天引きが「1年働く前提」で計算されています。退職したまま年を越すと、多めに引かれたままのことが多いです。この場合も、還付申告で取り戻せます。
反対に、確定申告をしないといけない人もいます。国税庁のタックスアンサー(No.1900)では、給与所得者でも次の人は確定申告が必要としています(還付になる人は除く)。
- 給与の年収が2,000万円を超える人
- 給与が1か所で、給与・退職所得以外の所得が20万円を超える人
- 給与が2か所以上で、年末調整されなかった給与と、ほかの所得の合計が20万円を超える人
この人たちが申告しないのは「年末調整を出さない」とは別の問題です。申告漏れになるので、気をつけてください。
年末調整を出しても、受けられない控除がある
年末調整を出せば全部済む、というわけでもありません。年末調整の申告書には、次の控除を書く欄がありません。
- 医療費控除
- 寄附金控除(ふるさと納税。ワンストップ特例を使わない場合)
- 住宅ローン控除の1年目
住宅ローン控除の1年目は、国税庁が「最初の年分は確定申告により適用を受ける必要があります」と書いています。医療費控除や寄附金控除も、国税庁は「年末調整を受けた方が確定申告で受ける」記載例を出しています。
ふるさと納税をした人は、6自治体以上に寄付するとワンストップ特例が使えず、確定申告が必要になります。また、ワンストップ特例を申請していても、還付申告などで確定申告をするとワンストップ特例は使えなくなります(総務省)。確定申告をする年は、ふるさと納税の寄附金控除もその申告に入れてください。入れ忘れると控除が受けられません。楽天でふるさと納税をする人は、楽天ふるさと納税はお買い物マラソン対象外にもあわせてどうぞ。
まとめ:罰はない。払いすぎた税金が、黙って残るだけ
年末調整の書類を出さなくても、罰則はありません。起きるのは、払いすぎた税金が戻ってこないことだけです。
- 扶養控除等申告書を出さないと、天引きは乙欄。月給20万円(社会保険料等を引いた後)で年18万4,320円多く引かれる
- 基礎控除申告書を出さないと、最大104万円の控除が年末調整で使えない
- 2026年は12月に控除が増える年。その精算は年末調整で行われる
- 出し忘れたら、まず年末調整の日までに会社へ出す。間に合わなければ翌年1月末までは会社でやり直し、その後は還付申告(5年間)で取り戻せる
払いすぎた税金は、自分で書類を出すか申告するまで戻ってきません。取りに行かなければ、ゼロ円。迷ったら、書類は出しておくのが一番安上がりです。
出典
- 国税庁「給与所得者(従業員)の方へ(令和8年分)」 https://www.nta.go.jp/users/gensen/nencho/index/kyuyosyotokusya.htm
- 国税庁「令和8年分 各種控除について(給与所得者用)」 https://www.nta.go.jp/publication/pamph/gensen/nencho2026/pdf/302.pdf
- 国税庁「令和8年分 年末調整のしかた 昨年と比べて変わった点」 https://www.nta.go.jp/publication/pamph/gensen/nencho2026/pdf/102.pdf
- 国税庁「令和8年分 年末調整のしかた 年末調整再調整」 https://www.nta.go.jp/publication/pamph/gensen/nencho2026/pdf/112.pdf
- 国税庁「給与所得の源泉徴収税額表(令和8年分)月額表」 https://www.nta.go.jp/publication/pamph/gensen/zeigakuhyo2026/data/01-07.pdf
- 国税庁 タックスアンサーNo.2665「年末調整の対象となる人」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2665.htm
- 国税庁 タックスアンサーNo.2030「還付申告」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2030.htm
- 国税庁 タックスアンサーNo.1900「給与所得者で確定申告が必要な人」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1900.htm
- 国税庁 タックスアンサーNo.2260「所得税の税率」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2260.htm
- e-Gov法令検索「所得税法」(190条・194条・238条〜243条) https://laws.e-gov.go.jp/law/340AC0000000033
- e-Gov法令検索「地方税法」(317条の3) https://laws.e-gov.go.jp/law/325AC0000000226
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