アドラー心理学に科学的根拠はある?主な主張4つを原文とデータで確かめたら、強い裏付けは0、全否定も0

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結論から書きます。

アドラー心理学の主な主張を4つ、原文と研究データで確かめました。強く裏付けられたものは0でした。でも、全部外れというわけでもありませんでした。

内訳は、「データで確かめようがない」が1つ、「大きな影響は見つからなかった」が1つ、「効果はありそうだがデータが少ない」が1つ、「つながりはあるが小さい」が1つです。

「アドラー心理学 やばい」「アドラー心理学 科学的根拠」という検索があります。この記事では、どちらの立場にも寄せずに数字を並べます。全部が嘘でも、全部が証明済みでもありませんでした。

先に一覧:4つの主張と、確かめた結果

主張 確かめた資料 結果
人の行動は劣等感とその埋め合わせで説明できる 哲学者ポパーの批判(1963年) 反証できない(ポパーの指摘)
生まれた順番で性格が決まる 約2万人のデータ(Rohrer 2015) 大きな影響は見つからなかった
アドラー派のカウンセリングは効く 心理療法の効果のまとめ(Smith & Glass 1977ほか) 効果はありそう。ただしデータが少ない
他人への関心(共同体感覚)が幸せにつながる 約20万人の研究のまとめ(Hui 2020) つながりはある。ただし小さい

ここからは、1つずつ順番に見ていきます。

1. 「何でも説明できる」ことが、いちばんの弱点だった

一言でいうと、アドラー心理学への最も有名な批判は、「当たらない」ではなく「外れようがない」というものです。

批判したのは、科学哲学者のカール・ポパーです。ポパーは若い頃のウィーンで、アドラーが作った子ども向けの相談所で一緒に働いていました。本人がそう書いています。

ポパーは著書『推測と反駁』(1963年。もとは1953年の講演)で、1919年の出来事を書いています。ポパーがある子どもの相談事例を話すと、アドラーは子どもに会ってもいないのに、劣等感の理論ですぐに説明しました。

どうしてそう言い切れるのかと聞くと、アドラーは「千回の経験があるからだ」と答えました。ポパーは思わず「では今回の件で、経験は千と一回になったわけですね」と返したそうです。

ポパーが問題にしたのは、次の2つの例です。

  • 子どもを溺れさせようと、水に突き落とした男
  • 命をかけて子どもを助けようとした男

アドラーの理論では、どちらも説明できます。突き落とした男は、劣等感から「自分は罪を犯せる」と証明したかった。助けた男も、劣等感から「自分は助けられる」と証明したかった。

正反対の行動が、同じ理屈で説明できてしまいます。ポパーは「いつも当てはまるという見かけの強さは、実は弱さだった」と書きました。

科学の理論は、「こうなったら間違い」と言える条件を持つべきだ、というのがポパーの考えです。どんな結果が出ても説明できる理論は、データで確かめることができません。これを「反証できない」と言います。

ちなみにアドラー自身は、代表作『人生の意味の心理学』(1933年ロンドン版)の12ページで、個人心理学は宗教と同じ結論(他者への関心を高めること)に「科学的なやり方で」たどり着く、と書いています。本人は科学のつもりでした。そこが、ポパーとの一番大きなずれです。

ただしポパーは、アドラーやフロイトの観察に大事な点が多いこと自体は否定していません。同じ箇所で、それらはいつか確かめられる心理学の一部になりうる、とも書いています。ポパーが問題にしたのは「中身が全部ウソ」ではなく、「今の形では確かめられない」という点でした。

2. 「生まれた順番で性格が決まる」は、大きなデータでほぼ見つからなかった

結論は、長子・末っ子といった生まれた順番と性格の関係は、大規模なデータではほぼ見つかっていないということです。

2015年にドイツの研究チーム(Rohrer、Egloff、Schmukle)が、アメリカ・イギリス・ドイツの合計20,186人のデータを調べました。外向性・協調性・誠実性・情緒の安定・想像力には、生まれた順番の影響は見つかりませんでした。自己評価の「知性」だけは、上の子ほどわずかに高い差がありましたが、ごく小さいものでした。

この話は連載の前の回で詳しく書きました。アドラーの原文には「長子は保守的」のような記述が実際にあります。一方でアドラー本人は、大事なのは生まれた順番そのものではなく、その子が置かれた状況だとも書いていました。

3. アドラー派のカウンセリングは「効きそう。でもデータが少ない」

結論は、効果を示すデータはあるものの、件数が少なく、はっきりしたことは言えないです。

よく引用されるのが、1977年にアメリカの研究者スミスとグラスが行った研究です。心理療法の効果を調べた375本の研究を集めて、まとめて計算しました。たくさんの研究を集めて平均を出すこの方法を「メタ分析」と言います。

結果を表にします。効果量は「治療を受けた人が、受けていない人よりどれだけ良くなったか」を表す数字です。0.7なら、治療を受けた平均的な人が、受けていない人の約4分の3より良い状態にある、という意味です。

療法 効果量 効果量の件数
系統的脱感作(行動療法の一つ) 0.91 223
論理療法(エリス) 0.77 35
アドラー派 0.71 16
来談者中心療法(ロジャーズ) 0.63 94
精神力動的療法(フロイト系) 0.59 96
全体の平均 0.68 833

出典: Smith & Glass (1977) American Psychologist 32巻 表3。全体の平均は図1より(375本の研究、833件の効果量)。

アドラー派の0.71は、全体の平均とほぼ同じです。ただし、効果量は16件しかありません。論文自身も「アドラー派の平均は約0.7。ただし16件しか見つからなかった」と断っています。ブレの大きさを示す数字(標準誤差)も0.19で、表の中では交流分析と並んで最大です。

16件しかないと、たまたま効果が大きく出た研究がいくつか混ざるだけで、平均が大きく動きます。だから「平均並みに効く」とまでは言えず、「効いていそう」が正確なところです。

その後、大人を対象にしたアドラー派の大規模な比較試験は、私が探した範囲では見つかりませんでした。子どもについては、2025年(雑誌掲載は2026年)に、3〜12歳への認知行動的な遊戯療法とアドラー派の遊戯療法(遊びを通じたカウンセリング)をまとめた論文が出ています。2003〜2023年の実験研究を集めて、行動の問題や言葉の遅れには効果がみられる一方、記憶などへの効果はまちまちだったと報告しています(アドラー派だけの効果を分けた結果ではありません)。また、これは研究を並べて読んだ報告で、数字をまとめて計算したメタ分析ではありません。

4. 「人への関心が幸せにつながる」は、方向は合っている。ただし小さい

結論は、アドラーの中心の考え「共同体感覚」と同じ方向のデータはある。ただ、つながりの強さは控えめです。

アドラーは代表作の253ページで、こう書いています。

人生で最も大きな困難を抱え、ほかの人を最も傷つけるのは、仲間に関心を持たない人だ。(『人生の意味の心理学』1933年版 p.253より訳)

これを今の研究で確かめるなら、「人に親切にする人ほど幸せか」という問いになります。2020年に香港大学などの研究チーム(Hui ほか)が、201本の研究、合計198,213人のデータをまとめました。

  • 親切な行動と幸せの間には、つながりがありました。強さを表す数字(相関係数)は0.13です。
  • 0.13は、研究者自身が「控えめ(modest)」と書いている大きさです。親切な人ほど幸せな傾向はあるけれど、それだけで幸せが決まるほどではない、という程度です。
  • 生きがい・意味を感じることとのつながりは、楽しさや満足感とのつながりより強めでした。
  • 決まった形のボランティアより、日常のちょっとした手助けのほうが、幸せとのつながりが強めでした。

注意点もあります。これは「親切だから幸せになる」のか、「幸せだから親切にできる」のかを分けられない種類の調査です。アドラーの言葉を「証明した」とまでは言えません。

正直に「やばい」と思った一文もある

原文を読んでいて、今の感覚では引っかかる箇所もありました。代表作の8ページです。

アドラーは「失敗した人」の例として、神経症や精神病の人、犯罪者、酒に溺れる人、問題を抱えた子ども、自ら命を絶った人などを並べ、みな仲間への関心が欠けているから失敗したのだ、と書いています。

病気や生きづらさを、本人の心の持ち方だけで説明する書き方です。1930年代の文章だという事情はありますが、今の精神医学の考え方とは合いません。「アドラー心理学 やばい」と感じる人がいるなら、こうした部分は理由の一つになりうると思います。

私の考え:「全部正しい」でも「全部インチキ」でもない

4つを並べると、アドラー心理学は「確かめられない大きな理論」と「確かめられた小さな手がかり」が混ざったものだと分かります。

「劣等感で何でも説明できる」という部分は、ポパーの言うとおり、今の形では検証のしようがありません。生まれ順の性格論は、大きなデータでほとんど影響が見つかりませんでした。

一方で、「人への関心が大事」という中心の考えは、小さいながらデータと同じ方向を向いています。カウンセリングとしても、効く可能性は示されています。

だから私は、アドラー心理学を「信じるか、捨てるか」で選ばなくていいと思っています。自分を責めるための物差しにはせず、少し楽になるための視点として、確かめられた部分から借りればいい。前の回までで確かめた「トラウマ」や「課題の分離」も、同じ読み方ができます。

まとめ

  • アドラー心理学の主な主張を4つ確かめると、強く裏付けられたものは0、全部外れというものも0でした。
  • 哲学者ポパーは、アドラーの理論は正反対の行動まで説明できてしまうため、データで確かめられないと批判しました。
  • 生まれた順番で性格が決まる、という説は、約2万人のデータで大きな影響が見つかりませんでした。
  • アドラー派のカウンセリングの効果量は0.71で平均並みですが、効果量は16件しかなく、「効いていそう」止まりです。
  • 人に親切な人ほど幸せ、というつながり(相関0.13)はあります。ただし小さく、原因と結果は分けられていません。

この連載では、アドラー・フロイト・ニーチェの言葉を、原文とデータで一つずつ確かめています。前回は「アドラーは褒めるなと書いていない」を、原文で数えて確かめました。

ではまた。

つらい気持ちが続くときは、一人で抱えずに相談してください。いのちの電話(0570-783-556、毎日10時〜22時)、よりそいホットライン(0120-279-338、24時間)などがあります。この記事は心理療法や診断の代わりにはなりません。

この記事で確かめた本

この記事は、アドラーの英語の原書の8・12・253ページを確かめました。日本語で読むなら、次の本があります。

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参考にした資料

  • Alfred Adler, What Life Should Mean to You, George Allen & Unwin, London, 1933(Internet Archive所蔵の全文)。8・12・253ページ
  • Karl R. Popper, Conjectures and Refutations: The Growth of Scientific Knowledge, 1963. 第1章 "Science: Conjectures and Refutations"(1953年の講演)
  • Smith, M. L., & Glass, G. V. (1977). Meta-analysis of psychotherapy outcome studies. American Psychologist, 32(9), 752–760.
  • Rohrer, J. M., Egloff, B., & Schmukle, S. C. (2015). Examining the effects of birth order on personality. Proceedings of the National Academy of Sciences, 112(46), 14224–14229.
  • Hui, B. P. H., Ng, J. C. K., Berzaghi, E., Cunningham-Amos, L. A., & Kogan, A. (2020). Rewards of kindness? A meta-analysis of the link between prosociality and well-being. Psychological Bulletin, 146(12), 1084–1116.
  • Sertkaya Fidan, B., & Ulusoy Doğmuş, Y. (2026). The effectiveness of cognitive behavioral and Adlerian play therapies in children aged 3–12 years: A systematic literature review. Research on Social Work Practice, 36(3).

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