「長男・長女はしっかり者」「末っ子は甘え上手」「真ん中っ子は負けず嫌い」。生まれた順番で性格が決まるという話は、雑談の定番です。アドラー心理学でも「出生順位」として紹介されることがあります。
では、アドラー本人は生まれ順について何と書いたのでしょうか。代表作『人生の意味の心理学』の英語の原文(1933年ロンドン版)で、該当する部分を最初から最後まで読みました。あわせて、2015年に発表された2万人と37万人の大規模研究の結果も並べます。
この記事は、アドラー心理学を「本人の原文」と「その後のデータ」で確かめる連載の1本です。これまでに「トラウマは存在しない」は原文にあるのかなどを調べてきました。
先に結論
- アドラーは原文で、長子・第2子・末っ子・一人っ子の特徴を具体的に書いています。「長子は過去が好きで保守的になりやすい」「第2子は競走しているようにふるまう」などです。
- ただし本人が同じ章で、「決まった規則はない」「大事なのは状況であって、生まれた順番そのものではない」と念を押しています(p.149)。一方で、家族の中の立場は「生き方に消えない刻印を残す」とも書いています(p.154)。
- ドイツ・米国・英国の約2万人を調べた研究(2015年)では、外向性・協調性・まじめさなどの性格に、生まれ順の意味のある影響は見つかりませんでした。
- 米国の高校生約37万人の研究でも、生まれ順と性格の関係は平均0.02(相関係数の絶対値の平均)と、ほぼゼロでした。
- 知能だけは、上の子がわずかに高い傾向がありました。それでも、10組のうち4組では下の子の方が上です。
アドラーは生まれ順について何と書いたか
生まれ順の話は、第6章「家族の影響」(p.120〜155)の中にあり、p.144から始まります。アドラーはまず、条件をそろえるために「両親がよく協力し、子育てに最善を尽くしている」と仮定します。そのうえで、それでも子どもの立場によって置かれる状況は大きく違う、と書いています。
原文の内容を、立場ごとに表にまとめました。
| 立場 | アドラーが書いた状況 | 出やすい傾向(原文) |
|---|---|---|
| 長子 | しばらく一人っ子として注目を集めた後、下の子の誕生で突然その座を追われる | 過去を好み、将来に悲観的。規則や権威を重んじ、保守的になりやすい。うまく育てば、下の子を守り世話をする人になる |
| 第2子 | 生まれた時から注目を分け合い、いつも前に「ペースメーカー」がいる | 競走しているようにふるまう。上に追いつこうと努力し、長子より成功することも多い |
| 末っ子 | 後から来る子がいないので、座を追われることがない。一番甘やかされやすい | 刺激が多く、きょうだいを追い越すことがある。一方で、甘やかされて勇気を失うこともある |
| 一人っ子 | きょうだいではなく父親と張り合いやすい。母親に甘やかされやすい | 注目の中心でいたがる。大人になって中心でなくなると苦労しやすい |
アドラーは、欧米での自分の経験も書いています。問題を抱える子どもは長子が最も多く、次が末っ子だった、というものです(p.147〜148)。また、聖書の物語を例に挙げて、第2子の典型はヤコブ、末っ子の典型はヨセフだと説明しています。
ここまでを読むと、世間で言われる「生まれ順の性格診断」とかなり近く見えます。長子がしっかり者で保守的、末っ子が甘えん坊、というイメージは、確かに原文にあります。
本人が付けた「但し書き」
ところが、同じ章の中で、アドラーはこう念を押しています(p.149)。
We must say, however, that there are no fixed rules in this way. It is not only an actual oldest child that can behave like an oldest. The situation counts, not the mere order of birth.
(ただし、ここに決まった規則はないと言っておかなければならない。長子のようにふるまうのは、実際の長子だけではない。大事なのは状況であって、単なる生まれ順ではない。)
例も挙げています。2人が続けて生まれ、しばらく空いて3人目、その後さらに2人が生まれた家を考えます。この場合、3人目の子は「長子」の特徴をすべて見せることがある、とアドラーは書いています。年の近い2人が他のきょうだいから離れて育てば、その2人が長子と第2子の特徴を見せる、という説明です。
さらに、長子と第2子の関係がこじれるのは、家族が競争の場になっている時だとも書いています。対等で協力し合う家族であれば、きょうだいが張り合う理由はなく、悪い結果は避けられる、という主張です(p.150)。
アドラーは、生まれ順の影響を軽く見ていたわけではありません。章の終わりでは、こう書いています(p.154)。
The position in the family leaves an indelible stamp upon the style of life.
(家族の中の立場は、生き方に消えない刻印を残す。)
ただ、ここで言う「立場」は、p.149の但し書きの通り、番号ではなく状況のことです。つまりアドラーの言う「出生順位」は、性格を決める番号ではありません。その子が家族の中でどんな状況に置かれ、その状況をどう受け止めたかを考えるための手がかりです。生まれ順そのものより、注目を奪われた経験や、前を走る誰かの存在の方が大事だ、という考え方です。
データで確かめる: 2万人の研究(2015年)
では、生まれ順と性格には実際に関係があるのでしょうか。2015年に、米国科学アカデミー紀要(PNAS)に大規模な研究が発表されました。ドイツのライプツィヒ大学とマインツ大学の研究者による、ローラーらの研究です。
使ったデータは次の3か国分です。
| 国 | 人数 |
|---|---|
| ドイツ | 10,457人 |
| 米国 | 5,240人 |
| 英国 | 4,489人 |
| 合計 | 20,186人 |
この研究は、別々の家族どうしで生まれ順を比べるだけでなく、同じ家族の中のきょうだいどうしも比べています。家の豊かさや子どもの数など、家族ごとの違いが結果に混ざりにくい方法です。
結果は、性格についてはほぼ「影響なし」でした。研究者の1人は、ライプツィヒ大学のシュムクレ教授です。マインツ大学の発表で、教授は「調べたどの性格の次元にも、生まれ順の実質的な影響は見つからなかった」と述べています。調べた性格は、外向性、情緒の安定性、協調性、まじめさなどです。
一貫して差が出たのは、知能に関するものだけでした。上の子ほど、客観的に測った知能がわずかに高い傾向がありました。また、自分の語彙が豊かだと感じ、抽象的な考えが苦手でないと答える傾向もありました。
ただし、知能の差もごく小さいものです。発表によると、10組のきょうだいのうち4組では、下の子の方が上の子より知能が高いという結果でした。シュムクレ教授は、個人のレベルではほとんど意味がないほど小さい、と説明しています。
データで確かめる: 37万人の研究(2015年)
同じ年に、米国イリノイ大学のダミアンとロバーツも、別の大規模データで調べています。1960年に米国の高校生を対象に行われた「プロジェクト・タレント」という調査で、対象は約37万7千人です。
年齢・性別・きょうだいの数・親の社会経済的な地位・家族の形をそろえたうえで分析した結果は、次の通りです。
| 比べたもの | 生まれ順との関係(相関係数の平均、絶対値) |
|---|---|
| 性格 | 0.02 |
| 知能 | 0.04 |
相関係数は、0なら関係なし、1なら完全に連動することを表します。0.02は、人数が多いので統計的には「差がある」と出ても、実際にはほぼ関係がない大きさです。長子の方が外向的で、協調的で、まじめで、不安が少ない傾向はわずかにありました。ただ、その差は「しっかり者の長男」と言えるほどのものではありません。
原文とデータを並べると
| よく言われること | アドラーの原文 | 大規模研究 |
|---|---|---|
| 生まれ順で性格が決まる | 立場は「消えない刻印」を残す。ただし決まった規則はなく、大事なのは状況 | 性格への影響はほぼゼロ |
| 長子はしっかり者・保守的 | 保守的になりやすい状況がある、と書いている | まじめさ等の差はごくわずか |
| 上の子の方が頭がいい | 第2子の方が成功することも多い、と書いている | 上の子がわずかに高い。ただし4割は下の子が上 |
アドラーは、家族の中の立場が生き方に強く影響すると信じていました。長子・末っ子などの具体的な描写は、本人の臨床経験からの観察です。統計的に確かめられたものではありません。データが示したのは、生まれ順という番号だけで見ると、性格にほぼ差が出ないということです。「大事なのは番号ではなく状況だ」という但し書きは、このデータと矛盾しません。
ただし、データが否定しているのは「生まれ順で性格が決まる」という部分です。アドラーが本当に言いたかった「その子が家族の中でどんな状況に置かれたか」は、2つの研究では直接測られていません。家族の中での状況が大事だという主張は、データで否定されたわけではありません。
自分のことを考える時の使い方
この連載は、自分を責めがちな人が、少し自分を認めて生きられるようにすることを目的にしています。その視点で、出生順位の話の使い方を整理します。
- 「長男だから」「末っ子だから」で自分を決めつけない。データでは、生まれ順で性格はほぼ決まりません。
- 代わりに、子どもの頃の状況を思い出してみる。下の子が生まれて寂しかった、いつも上の子と比べられた、など。アドラーが手がかりにしたのは、生まれ順ではなく子どもの頃の状況です。
- その状況を「どう受け止めたか」は、自分で選び直せる。同じ状況でも、受け止め方は人によって違う、というのがアドラーの基本的な考え方です。
雑談で「やっぱり長女っぽいね」と言われることもあると思います。そんな時は「アドラー本人も、生まれ順そのものより状況が大事って書いてるよ」と返してみるのも一つです。
まとめ
- アドラーは『人生の意味の心理学』第6章で、長子・第2子・末っ子・一人っ子の特徴を具体的に書いている。
- 立場は「生き方に消えない刻印を残す」と書く一方で(p.154)、「決まった規則はない」「大事なのは状況であって、単なる生まれ順ではない」とも書いている(p.149)。
- 約2万人の研究では、性格に生まれ順の意味のある影響はなかった。約37万人の研究でも、相関は平均0.02。
- 知能は上の子がわずかに高い傾向。ただし10組中4組では下の子が上。
出典
- Alfred Adler, What Life Should Mean to You, edited by Alan Porter, George Allen & Unwin, London, 1933(初版は1931年、米国)。インターネットアーカイブ公開の全文 https://archive.org/details/in.ernet.dli.2015.221693 (p.144〜155)
- Rohrer JM, Egloff B, Schmukle SC. "Examining the effects of birth order on personality." PNAS, 2015;112(46):14224-14229
- マインツ大学 プレスリリース "Birth order has only very small effects on personality" https://press.uni-mainz.de/birth-order-has-only-very-small-effects-on-personality/
- Damian RI, Roberts BW. "The associations of birth order with personality and intelligence in a representative sample of U.S. high school students." Journal of Research in Personality, 2015;58:96-105 https://doi.org/10.1016/j.jrp.2015.05.005
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